平成29年桜蔭中学校社会①より 地理編富山県④ 越中富山の薬売り②

どうも。歴旅です。今日もぶらりと歴史旅。中学受験、御三家の社会を楽しく学びましょう。

富山の薬売りの続きです。まさかこんなに続くとは!と思った人もいるかもしれませんが、幕末まで続きます笑


プレイス戦略(置き薬商法)
富山の薬売り、と言ったら訪問販売の置き薬商法。
今だと結構びっくりですが、いきなり家に売りに来て、薬を置いていくんです。そして定期的に訪問しては、使った分だけ後から支払ってもらいました。
これって結構合理的なんです。薬って基本的に高い。今はそうでもないかもしれませんが、当時は薬なんて買えないような家がたくさんありました。現金収入があって薬を変えるのですが、そんなにホイホイ買えるものでもない。それに、いざ病気になった時に必要なのであって、元気な時には不要です。そんな薬を常備するために高いお金を支払うか、というとそんなことはありませんでした。
そのため、「いざ病気になった時に使ってくださいね。使った分だけ後で支払ってくれればいいですから」と言って薬を置いていくんです。

これはお客さんにとっても、売る側にとってもよい方法でした。「先に買え」と言ってもいらないから売れない。今買えと言われても病気になってないからいらない。これを解決するビジネスモデルでした。
先用後利と呼ばれました。

プライシング戦略(薬九倍層
 薬を扱ったのには先見の明がありました。
まず軽い。多品種を軽装でも持ち運べる。単価が高い。
❘薬九倍層≪くすりくばいそう≫と言われていました。要するに利益率90%。
利益率がめちゃ高いんです。うらやましいですね笑
現代でこれが可能なのはWEB関連サービスでしょうか。
モノづくりは原価と工場などの設備投資におカネがかかるのでここまで利益率を高めることができません。
ワクチンを作っている会社は相当儲けていそうですね。

製薬会社。実は極めて政治的な役割を持っているんです。

■富山の薬売りから始まる波及効果がすごい
 富山の薬売り。健康ビジネスであるものの、現代的にも学ぶべきものが大量にあります。
 この売薬産業によってさまざまな波及効果があります。

❘掛場帳≪かけばちょう≫(顧客台帳管理)
 まずは薬を置いていったところで台帳管理をしていきます。
 この頃からデータベース管理をしてビジネスしています。
 WEBではないリアルな訪問データ。
 そうすると何が分かるでしょうか?

①他国事情把握
「他領商売勝手」でビジネスしているので、日本全国各地の地域事情が常に把握できる状態になりました。魚が美味い、とかではないですよ笑
どこが戦争しそうか、飢饉の影響、経済状態はどうか、政治状況はどうなっているのか、などつぶさにわかります。

将軍・大名の健康状態
当時江戸幕府の❘御典医≪ごてんい≫も漢方医でした。薬の調合によって健康状態を管理しているため、御典医と繋がることで江戸城内部の機密に近い部分にも触れることができます。他藩でも近いところが見て取れます。

③経済状況
 いろんな村に行きますが、置き薬をしているとお財布事情が探れます。そうするとお仕事状況、産業なども把握していけますね。

④結婚相談
 越中富山から日本海側は雪深いです。冬になるとそんなに広範囲には動けません。基本家の中。そんな中、置き薬屋さんが来てくれるのはありがたいですね。いろんな外の情報を持ってきてくれて楽しいですし、ついついなんか買っちゃいそうですね笑
 そんな中でも顧客台帳を持っている薬屋さん。年頃の若い人がいたら、結婚相手の相談にも乗っていました。隣村の治郎吉がそろそろ結婚したいと言っていたなぁ、とか。好みや家の相性なども聞くことができます。
当時はお見合いが主流ですが、経済力とか家柄も合いそうだと判断できる。

 データベース管理で人と人を結びつけることができますね。ビジネスレベルでの結びつきも可能ですが、家と家の結びつきの方が難易度が高いです。しかし、こうしたこともしていました。ビジネスではなくサービスだったかもしれません。しかし信頼ができることで売薬の方も順調になった事でしょう。

先のチンドン屋から修験道も元々そうですが、もはや富山藩、すさまじいインテリジェンスです。日本全国津々浦々の情報を把握している。
ちなみに戦後は西洋医学が流入して低迷する中、本家の中国で輸出売薬を展開し、海外売上の8割は中国市場で売れていました。もちろん同様のデータ管理をするわけです。これは一つの資産ですね。

⑤保険
江戸時代にはありませんでしたが(正確にいうと講という母体は生まれていました)、保険業の派生にもつながります。
船舶や家などを対象とした火災保険などはありましたが、薬を扱っていると生命保険という考え方になってきます。
こちらも明治期に発展していくのでした。

富山の薬売り自体が試験に出ることは少ないと思いますが、自然環境と産業の発達の仕方は知っておいた方がいいです。

岐阜県土岐市の織部焼だったら、セラミック産業へと発達していきます。
ゼロ戦を作った技術が新幹線へ転換したり。

自然環境、技術の歴史を辿れるようになると、正答率も高くなります。

富山編、幕末へ続いていきます笑