平成29年桜蔭中学校社会②より お茶の歴史⑨ 岡倉天心『茶の本』・アジアの独立

どうも。歴旅です。今日もぶらりと歴史旅。中学受験、御三家の社会を楽しく学びましょう。

お茶の話をしているはずなのにどんどん深くなっていく笑
文化史でも開成の東京問題でも出ますよ。
アジアの独立、と言いながら日本国内の話をしましょう。

■岡倉天心
『茶の本』という本があります。著者は岡倉覚三。岡倉天心の本名です。
この岡倉天心。横浜生まれの東京大学卒。東京美術学校という日本芸術大学の前身の学校を作りました。彼の父は福井藩の藩命で商館「石川屋」の貿易商となり、絹糸の輸出を扱っていました。横浜開港とともに押し寄せてきた外国人貿易商人相手に稼いでいたんですね。この環境だったので岡倉天心も英語が得意で、アーネスト・フェノロサの助手をして日本の美術品収集にあたりました。かれは美術家として有名です。

しかし今日は『茶の本 BOOK OF TEA』に触れていきましょう。アメリカではkakuzoと呼ばれていたそうで、著者名は岡倉覚三になっています。これは英語で茶道の説明をした本を和訳したものです。外国人に対して日本文化を紹介する本ですね。新渡戸稲造『武士道』、「二つのJ(日本とジーザス)」を提唱した内村鑑三など、もともと「日本とは何なのか」というテーマを英語で世界に発信していました。
世界に対する日本の役割、東洋と西洋文化を橋渡しする日本。
この頃の日本人には世界の中の日本の価値を明確に認識していました。外交、法律、経済などの裏にある根本原理は哲学思想、歴史、文化から発しているので影響力がありました。

この本は薄い本なのでいつか読んでください。
最近はTSUTAYAで写真入りオシャレ本で売ってたりします。
『茶の本』は茶道をテーマに日本文化を説明しています。

もともと中国から来たお茶ですが、もう完全に茶道として日本の文化として定着しきりました。禅と結びつき思想を体現する作法として、感性を磨く行為として茶道が関わっています。
例えば一輪の朝顔などどこに美しさを感じるのかを、アメリカのパーティーで飾られたバラが翌日ごみ箱に捨てている感性と比較して論じるなど、日常の景色から文化、思想、感性、美意識を描き出しています。

茶道を通じて日常の習慣に落とし込まれた禅の思想。かなり深いです。

そんな岡倉天心。インドのタゴールとも会っています。タゴールはベンガル出身の詩人ですが、アジア人で初のノーベル賞を取っています。この頃のインドはイギリス支配下でしたが、岡倉天心はうまく官憲の眼を逃れながらインドへ潜入し植民地支配の実態を見るんですね。天心はアジアに対する深い同情、独立への意志と情熱をもった戦う美術家でした。
この頃の美術家の役割は極めて重要です。日本とは何なのか?という表現を絵で、彫刻で、文学で示していくことは文化的独立圏であることを示すことができます。
タイが英仏間で独立を保つことができたのは、考古学から長い間王朝があった歴史を証明したこと(欧米ではアジアは無主地であるから支配していい、という概念があったため)、物証として仏教美術など古美術が用いられ、文化を示すことができました。英仏のバッファーステートとなる事で力の空白地帯にした方がいい、というロジックもありましたが、欧州は歴史に弱いんですね。長く続いた歴史に対しては敬意を払おうとする。この頃の日本の芸術家は陰に陽にわかっていたのでしょう。

日本画を描いた横山大観
上野に家がありますが、日曜のんびり滞在したい素敵な和風庭園の家があります。『屈原』、いい絵です。

横山大観「屈原」10


東の横山大観、西の|竹内栖鳳《たけうちせいほう》と称された竹内栖鳳。『羅馬之図』はローマの廃墟を日本画で描きました。斬新です。

竹内栖鳳羅馬之図


東山魁夷《ひがしやまかいい》も有名ですね。
すごくシンプルな風景画を得意とします。

東山魁夷「緑深く」

平山郁夫《ひらやまいくお》はシルクロード美術館で有名ですね。
仏教テーマが多く、バーミヤンの大仏保護事業、カンボジアのアンコールワット救済など幅広く取り組んでいました。わりと最近まで生きていた人です。

平山郁夫仏教伝来

芸術の社会的価値というのはこういうところにあると思います。
岡倉天心は「アジアは一つ」という言葉で有名ですが、インドの独立運動家を支援し、日本の文化的価値を発信する。「アジアは一つ」とする天心の心には東洋思想が中心軸にあり、日本はインドの仏教、中国の禅を取り込んで融和させた茶道があるとしました。不完全さを愛することなど日本の思想を説き、もう全米が泣いた

お茶。芸術。そして日本文化の神髄を世界に発信すること。
戦前の人達は深いですね。単なる絵描きではなく、思想家だったんです。そして海外を渡り歩き、海外で評価され、逆に日本の価値を爆上げしてくる。
インドは心から独立したかった。ビハリ・ボースという独立運動家は日本に亡命してきました。
新宿中村屋のカレーですね。東口駅前のアルタを正面に右の横断歩道を渡るとあります。超一等地に中村屋のビルが。カレーもおいしいです。日本の警察は日英同盟があるから捕まえて引き渡さなければならない。でも日本の素封家そほうか(お金持ち)が守ってくれるんですね。インド独立の志士を守らねばならぬと。
芸術家・パトロンの素封家・アジア独立運動。
強く結びつき、みな日本に逃げ込んできていました。