2018年開成中学校社会①より 近現代史 大東亜戦争の遠因

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日本はなぜ戦争したのか?
これは難しい問題です。アメリカと戦ったら95%くらいの確率で負ける。開戦後に日本中の軍人、経済学者などエリートで作った総合力研究所では、日米戦争は「必敗」とはじき出しました。可能性があるとすれば短期決戦のみ。

状況が複雑なので諸説あって当たり前だと思いますが、開戦理由は下記2点だと思います。
①中国がアメリカを対日戦争に引き込むことに成功した
②どう頑張ってもアメリカが戦争を吹っ掛けてくるのを回避できない状態だった

もっと前に手を打てたとも言えますが、当事者の視点でない限り、結果を知っている現在から言うのは妥当ではありません。
第1次世界大戦中に日本が奪取した山東省。この時アメリカ人宣教師の息子ヘンリー・ルースは山東省にいました。中国を追われた彼らは日本軍に恨みを持ちました。彼はのちにアメリカで『TIME』という雑誌を創刊。反日メディアとして成長。対中支援キャンペーンを行い1937年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」は蒋介石でした。宋家三姉妹のひとり宋美齢は蒋介石の妻ですが、アメリカでロビー活動を精力的に実施。中国はアメリカを対日戦争に引き摺り込むことに成功しました。戦後日本人は中国に負けたと思っていなかったと思いますが、高度な外交、情報戦で負けたといえるかもしれません。

また、遅れてきた帝国主義アメリカは中国利権が何としても欲しかった。日本はロシアの侵入を防いだ日露戦争終戦後、アメリカの鉄道王ハリマンは桂太郎と桂・ハリマン協定を締結。日本はかなり話を進めてました。国内世論では満州経営はそれほど儲からない、と考えてました。満州経営積極論者は児玉源太郎くらいだ!で、共同経営でもいいと思ったのでしょう。また、ロシアが復讐戦に来た時に日本だけは止められないという懸念がありました。アメリカが絡んでいれば攻めてこないという読みもありました。しかしここでひと悶着ありました。

ハリマン提案は、具体的には下記4点です。
①日本内地の鉄道を合同し、標準化する工事に出資
②東清鉄道南支線(南満洲鉄道)について、日本と共同出資
③満洲における炭坑経営や鴨緑江森林事業への経営に参画
④韓国鉄道と北清鉄道とを接続

包括的内容ですね。しかし満州経営は単独でやっても利益が出る読みもありました。日清戦争後にロシアが始めた満州経営ですが、鉄道によって異次元の発展をする可能性があったからです。
ポーツマス講和会議から帰国した外務大臣小村寿太郎の強い反対で破棄しました。小村寿太郎はポーツマス講和会議から肺尖カタルでゲハゲハ。療養を、と寝ていたのですが、情報を聞いて数日で急遽帰国。
彼はポーツマス条約で日本が獲得した数少ない経済利権の南満州鉄道を、外国に半分権利を譲り渡すというのはとんでもない愚行だと思いました。また、日比谷焼討事件が発生するほどの国内不安を更に加速する可能性がありました。彼は外債募集のために渡米していた金子堅太郎によってセオドア・ルーズベルトの親戚、モンゴメリー・ルーズベルトから、「もし日本が南満鉄を単独経営するなら、財政的に日本政府を援助する。既に5行のニウヨーク銀行の頭取連と相談、承諾済」
という話を得ていました。そのため小村寿太郎は急遽帰国して大反対。日本政府も反省して撤回。
小村寿太郎は、「そもそも清国から日本に引き渡されていない権益を、日米間だけで確約できない」という論理を持ち出して、船で帰国中のハリマンに「やっぱり覚書なしね」と打電。日本でめちゃめちゃ歓待されていたハリマン、びっくり仰天。ハリマンは在米特使高橋是清に「今から10年内に日本は、米国との共同経営をしなかったことを後悔するだろう」と語りました。日本はアメリカの仮想敵国とされたといわれています。

ちなみに清国からの権益を譲り渡してもらう交渉。袁世凱VS小村寿太郎+内田駐清大使。この交渉はポーツマス会議以上に難航したそうです。「日露戦争でも中立だったのに人の国で何してくれんねん」ということです。日露間で話が進んでいますが、現実的にはその通りですね。

ハリマンは世界一周鉄道を作りたかった。その一環で南満州鉄道、東清鉄道を買収したかった。いつの時代も中国権益をめぐって戦争が起きています。日本は日露戦争で大借金を作っていました。これも満州から引けなくなる遠因です。

この日露戦争をきっかけに日本は大きな戦略的変化が生まれます。それは海洋国家だった日本が、満州権益を獲得したことにより大陸国家へと変化したことです。日本陸軍はこの大転換後も着実に成長していきました。
日露戦争の差し込みが長くなりましたが、満州権益と「大陸国家日本」が日中、日米の戦争の起爆剤となっていきました。陸軍が悪者にされる所以でもあります。